皆さん、こんにちは。
「悪い夢を見たら、バクさんに食べてもらおうね」
幼い頃、親からそんな風に言われた経験はありませんか? あるいは、某国民的RPGの「さいみんじゅつ」を使ってくるアイツや、某ポケットなモンスターの「ゆめくい」を繰り出すあの獏を思い浮かべる方も多いかもしれません。
現代の日本において、「獏(バク)」といえば「人の悪夢を食べる、ちょっとバク(動物)に似た不思議な幻獣」というのが一般的なイメージですよね。
しかし、例によって例のごとく、この獏の生まれ故郷である中国の古い文献を紐解いてみると……「お前、本当にあの夢食いバクか?」と問い詰めたくなるような、全く異なるワイルドな姿と能力が浮かび上がってくるのです。
今回は、知っているようで知らない「獏」の真実の姿について解説していきたいと思います。

1. 白居易が語る「獏」の衝撃的なビジュアル
獏についての最も有名な記述の一つに、唐代の文豪・白居易(白楽天)が書いた『獏屏賛(ばくへいさん)』というテキストがあります。
白居易は頭痛持ちだったらしく、「獏の絵を描いた屏風(ついたて)を置いて寝たら頭痛が治った! 獏すげえ!」というテンションでこの文章を書いているのですが、そこに記された獏の見た目がこちら。
「獏は、象の鼻、犀(サイ)の目、牛の尾、虎の足を持つ」
……いや、キメラが過ぎる。
現代の動物のバクも確かに「象の鼻」っぽいですが、中国の伝承における獏は、サイの目をして、トラの足で歩く、かなりガチ目の猛獣ビジュアルです。どこか愛嬌のある「夢食いマスコット」の面影はありません。完全に戦闘力が高そうなUMAです。
2. 本来の能力は「夢を喰う」ではなく「邪気を払う」
そして一番の衝撃が、その能力です。 古い中国の伝承において、獏は「夢を食べる」なんて一言も言われていません。
じゃあ何をする獣なのかというと、「邪気を払い、疫病を退ける」です。
先ほどの白居易の屏風もそうですが、獏の絵を寝室に飾ったり、その皮を敷いて寝たりすると、邪悪な気(病気や災い)が寄ってこなくなると信じられていたのです。つまり、純粋な「魔除けの聖獣」だったわけですね。
さらに、漢代の辞書『説文解字』などを見ると、もっと即物的な特徴が書かれています。
「獏は、鉄や銅を食べる」
……鉄喰うの!? 夢じゃなくて、金属主食系女子(男子?)だったの!?
「鉄を食べる」という設定は、後に日本の妖怪「ぬえ」や「獏」の伝承にも影響を与えますが、元々は中国の山奥に住むとされた怪獣の生態でした。悪夢どころか、そこらへんの鍋釜をバリバリ貪り食うワイルドな存在、それがオリジナルの獏なのです。
3. なぜ「悪夢を喰う」になったのか?
では、なぜ邪気払いの鉄喰い怪獣が、日本では「悪夢を食べる可愛い生き物」にジョブチェンジしてしまったのでしょうか。
これには、日本への伝来時の「誤解」と「アップデート」が関係しています。
中国から「獏の絵を飾って寝ると、邪気が払われて悪夢を見ない(良い眠りにつける)」という文化が日本に伝わった際、日本の人々はこう解釈してしまったようです。
「なるほど! 獏が『悪夢』を直接ムシャムシャ食べて処理してくれてるんだな!」
結果重視の超訳。 「邪気を払うプロセス」が省略され、「悪夢を食べる」というダイレクトな能力に変換されてしまったわけです。日本人のこういうファンタジーへの昇華能力、本当にブレません。
室町時代頃になると、縁起物として枕に「獏」の文字を書いたり、獏の絵を描いた「宝船」の絵を枕の下に敷いて初夢を見る風習が定着しました。こうして、日本独自の「夢喰い獏」が完成したのです。
まとめ
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中国の獏: 象・サイ・牛・トラのキメラ。鉄を食い、邪気を払うガチの魔除け獣。
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日本の獏: 「悪夢おいしいです(^q^)」と夢を食べてくれる、ちょっとおっとりした幻獣。

もし今度、怖い夢を見て目が覚めたら、枕元に向かって「バクさん、今の夢をあげます」と唱えてみてください。
日本の可愛い獏が優しく食べてくれるか、あるいは中国のオリジナル獏が「オラァ! 悪夢(邪気)持ってきたぞ!」とトラの足で部屋に踏み込んできて、邪気を粉砕してくれるかもしれません。後者の方が、ある意味で安眠できそうな気もしますね。
それでは、今回はこの辺で。 また次回の怪異譚でお会いしましょう。